受け継ぐものと、断ち切るもの。

私は、700年続く家系に生まれました。

その歴史を知るたびに、自分がどれだけ長い時間の流れの中に立っているのかを実感します。

歴史があるということは、確かに誇りでもあります。 遠い昔から続く命のバトンが、自分にまでつながっているという事実は、何よりも力強いものです。 でも同時に、それは目に見えない「責任」や「役割」という形で、ずっしりとした重みをもたらすものでもあります。

家を継ぐ。 祈りを継ぐ。 土地や風習だけでなく、目に見えない“何か”も継いでいく。

それは、意識的に受け取ったものではなく、気づけば自分の内側に染み込んでいたようなもの。 風のように、空気のように、日常の中に溶け込んだ“言葉にならないもの”を、私は知らぬ間に背負っていました。

幼いころから、誰に言われるでもなく、それを当然のように受け入れていた自分がいました。 「そういうものだから」「みんなやってきたことだから」と、深く考えることなく、ただ流れに身をゆだねてきた部分もあります。

語られなかった「痛み」

けれども、そんな中には、語られなかった「痛み」もありました。 それは、まるで家系という名の大樹の根の奥深くに、静かに埋もれていたようなもの。

代々続いてきた中で、表に出ることのなかった「何か」が確かに存在していたのです。 それは、誰も明言しないけれど、家の空気や、儀式、会話の間に確かに漂っている、無言の圧力のようなものでした。

それは、知らず知らずのうちに人の心を縛り、時に生きる希望すらも奪ってしまうことがある。 そしてその「何か」に、心や命を深く揺さぶられ、静かに崩れていった人たちがいました。

見えない苦しみ

目の前で崩れていく姿を見たことも、そして語られずに消えていった存在の気配を感じたこともあります。 誰も口にしないけれど、そこには確かに、見えない苦しみがあった。

誰も悪くはない。 でも、何かが確かに間違っていた。

だからこそ、私は決めたのです。 「自分の代で、この流れに終止符を打とう」と。

けれど、最初のうちはその方法がわかりませんでした。

黙って背負うこと。 何も語らずに、そのまま生き抜くこと。 それが「断ち切る」ということだと、どこかで信じていたのです。 自分が黙っていれば、次の世代には伝わらないはず。 自分が堪えれば、それで済む。 そう思っていました。

無言の圧力

けれど、月日が流れる中で、私は気づきました。

黙ることでは、何も変わらない。 むしろ、それは同じ「無言の圧力」を、形を変えて渡していくことにすぎない。

本当に必要だったのは、語ることだったのです。 言葉にして、痛みも歴史も、そしてそこにあった優しさや願いも、すべて伝えていくこと。

伝えること。 生きること。 そして、生き抜くと決めること。 それこそが、本当の意味で「断ち切る」ということなのだと、ようやく理解しました。

語ることは、怖いことでもあります。 見て見ぬふりをしていた部分を見つめ直すことになるからです。 でもそれ以上に、語ることで初めて浮かび上がる「意味」があるのです。

言葉にすることで、曖昧だった痛みが形を持ち、 生きてきた意味や、背負ってきた役割に、ようやく名前がついていく。 そうして初めて、人は「選ぶ」という行為ができるのかもしれません。

自分が選んだ道を

私は今、こんな信念を胸に生きています。

「正解かどうか」を探すのではなく、 自分が選んだ道を、正解にしていく。

そのためには、勇気がいります。 他人の期待や、世間の目、過去の慣習や評価を振り切る必要があるからです。 でも、誰かに“正しさ”を委ねるのではなく、 自分の命は、自分の手で選んでいいのだと、今ならはっきり言えます。

「こうでなければならない」という声に縛られず、 「こう在りたい」と願う自分の声に耳を澄ます。 その小さな一歩から、人生の流れは確実に変わっていくのです。

命の営み

古き良きものは、敬いながら受け継いでいく。

それは、形だけの伝承ではなく、 心から感謝し、理解し、意味を見出したうえで引き継ぐということ。

先祖の祈りや暮らしの知恵、土地とともにあった生き方。 そうした「命の営み」は、未来にも手渡していきたいと心から思います。

けれど一方で、 時代の中で擦り切れ、苦しみを生んできたもの。 語られずに隠された声。 傷ついたままの想い、癒されることのなかった心の断片。

それらは、ここで終わりにしようと思っています。

過去を否定するのではなく、 今という地点から光をあてて、 新しい流れへと繋ぎなおしていく。

それが、僕が背負ってきたものへの祈りであり、 家族への愛であり、 そして、今を生きる使命だと、心から信じています。

もし、あなたもまた、何かを背負いながら生きてきたのなら。 語られなかった想いに、静かに耳を傾けてきたのなら。

この言葉が、少しでもあなたの心に触れられたのなら、嬉しく思います。

そして願わくば、あなた自身が「選ぶ」という行動を通して、 新たな未来を描いていけますように。

あなたが、あなたらしく生きるための、 ほんの少しのきっかけになれば幸いです。

💬コメントはあなたとの大切な対話の場所

読んでくれてありがとう。
もしよければ、あなたの思いや考えも聞かせてもらえたら嬉しいです。
一緒に想いを重ねていけたらと思っています。

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